◆光の重要性

地球上に生命が誕生して以来、生き物と太陽光線は深いつながりをもったまま現在に至っています。太陽が光り輝いていなければ多種多様な生物は進化していなかったでしょうし、もちろん人間も産まれていなかったことでしょう。生命の根本には太陽の恵みが息づいているのです。
古代の人々は、日の出から活動を開始し、日没と共に眠りについていたのでしょう。それが「火」の発見によって、活動時間を大幅に伸ばすことができるようになりました。人工の光と熱を手に入れたのです。
しかし、その頃はまだ日中は屋外で活動し、夜間の照明として火を利用していたに過ぎません。昼間は太陽の恵みをふんだんに利用していたことでしょう。
しかし、近代になってから電球や蛍光灯が発明され、産業革命によって人々は朝から晩まで建物の中で働くようになってしまいました。太陽を見ることはほとんどなくなり、一生のうちの大部分を電燈か蛍光灯のもとで過ごすようになってしまいました。
電球や蛍光灯の光と、太陽の光はどう違うのでしょうか。一見すると大差ないように感じますが、太陽光には、人間が目で感じることができる「可視光」のほかに、目に見えない「赤外線」や「紫外線」も同時に含まれていて、それぞれに生物に与える影響が異なります。また、色温度やスペクトル分布、スペクトルの連続性、演色指数など、太陽光線と人工の光ではかなり異なっていることが知られています。それをもう一度簡単に整理してみましょう。

◆太陽光線とは

wavelength 一般的に「光」と呼んでいるのは、ある物体から放射される連続した電磁波の中の、人間が目で感じることができる波長域のことです。この範囲は、波長の長さがだいたい760nm(ナノメートル:十億分の1メートル:100万分の1mm)から400nmの電磁波です。波長が長い方が「赤」、短い方が「紫」で、虹に見られるような赤から紫にかけた連続したスペクトルになっています。この範囲が、たまたま人間を含む多くの生物の視細胞を刺激して「光」として見えるだけであって、実際は赤よりも長い波長の電磁波も、また、紫よりも短い波長の電磁波も自然界には存在しています。
実際は、図のように、長い波長ではテレビやラジオの電波も、また短い方ではガンマ線やx線も、可視光を含む連続した電磁波の一部なのです。
宇宙空間で見た太陽光は、生物にとって危険な領域の電磁波も放射していますが、地球表面に到達する太陽光は、厚い大気の層を通過する間に減衰され、赤外線から紫外線に至る限られた範囲の電磁波のエネルギーが高くなっています。逆に考えると、太古の地球で、大気の組成などによって地表に降り注ぐこの領域の電磁波のエネルギーが高くなったので、それを利用するように生物の眼が作られていったということなのでしょう。
何億年という生命の歴史の中で、いつの時代も生き物たちは太陽の光の中で進化してきました。したがって、本物の太陽に含まれる様々な波長の電磁波、可視光領域のエネルギー分布、光の強さなど、どれもが生命にとって重要な要素なのではないでしょうか。自然界の状況を想像すると、可視光だけではなく、太陽光の持つこれら全ての要素が同様に大切なのではないかと考えています。

・赤外線(IR)

可視光の赤よりも波長が長く、770nmから100μm(マイクロメートル:100万分の1m:0.1mm)ほどの電磁波は、赤外線と呼ばれています。人間には見えない電磁波ですが、物体を暖める性質があります。活動前に十分太陽光を浴びているカメやトカゲなどの姿を目にしますが、多くは太陽の赤外線の恩恵にあずかって、体温を上昇させようとしているのです。太陽光には赤外線がふんだんに含まれています。
赤外線の特徴として、波長が長い分、反射や吸収がされにくく、ガラスなども透過してきます。日向に置いたガラスの温室の内部が真冬でも温かいのは、赤外線を通し、熱の伝導率の低いガラスの性質をうまく利用している例です。
赤外線は、人工照明では白熱タイプの電球に多く含まれています。

・可視光

spectrumsun
太陽光のスペクトル分布例:両端のエネルギーが下がったきれいな釣鐘型をしている。
spectrumlightbulb
白熱電球のスペクトル分布例:紫外線は出てなく、右上がりの偏ったスペクトルになります。
spectrumfluorescent
通常蛍光灯のスペクトル分布:スペクトルが連続してなく、数種類の蛍光物質の発光波長のピークが合成されています。
いわゆる「光」として感じる部分で、770nmから380nm付近の領域の電磁波です。便宜的に、太陽光は昔から「赤、橙、黄、緑、青、藍、紫」と7色に分けた表現をされていますが、実際の太陽光は段階に分れたものではなく、赤から紫までの連続したスペクトルになっています。光として眼で見える範囲は、個体差もありますし、生物の種によって可視波長域が多少異なることが知られています。ヘビなどはピットと呼ばれる赤外線探知器官を持っていることが知られていますし、多くの昆虫類はかなりの紫外線領域まで見ることができるようです。
したがって、正しい色で物を認識させるために、照明も正しいスペクトルの光を使うのが理想的です。面白いことに、太陽固有の性質や、大気中の塵や水蒸気などによって、太陽スペクトルのエネルギー分布は平坦ではありません。図のように、全体的には黄色〜緑をピークに、両端になだらかに下がっています。
よく耳にする色温度は、このスペクトル分布とも関係していて、赤寄りのエネルギー分布が高いスペクトルを色温度が低い光と表現し、紫寄りの分布のものを色温度が高い光と表現します。晴天の日中の天空光の色温度は、5500K〜6500K(ケルビン)とされています。人工照明を選ぶときも、あまりこの数値から外れるものは良くないでしょう。こういった事は、なかなか数値で表すのは困難ですが、生き物の精神的な影響や、食欲、繁殖などに影響を与えていると言われています。
人間でも色バランスの崩れた照明の部屋で長時間過すと、精神的に滅入ってくることはあるでしょう。他の生き物は、われわれ人間よりももっと光の質については敏感かもしれません。このようなストレスによって、食欲が減退したり、免疫力が低下したりすることは十分考えられます。

・紫外線(UV)

生き物の健康上、常に話題に上るのがこの紫外線です。紫外線も、たまたま人間が眼で見えないというだけで、紫の外側に連続して存在している電磁波です。紫外線は、波長の違いによって作用が異なり、波長の長いものからUV-A、UV-B、UV-Cなどと呼ばれることもあります。UV-Aは紫のすぐ外側の電磁波で、その電磁波自体は見えませんが、物体に照射されると物質によっては蛍光を発します。そのため、可視光に紫外線が含まれていると、物の視認性が高くなります。また、繁殖行動も促す作用があると言われていますが、はたしてそれがUV-Aの絶対量が作用しているのか、UV-Aの変化量が引き金になっているのかはもう少し研究する余地があるでしょう。
UV-BはUV-Aよりも少し波長の短い紫外線で、主にビタミンDの活性化に作用すると言われています。草食動物は、捕食動物からビタミンDを吸収できないので、特にUV-Bの領域の紫外線が重要だとされています。カルシウムをいくら与えても、紫外線の作用がないとビタミンDが活性化されず、カルシウムを有効に活用することができません。骨や歯が弱くなるのは、カルシウム不足だけから起こるものではなく、紫外線不足から起こる場合も多いのです。
UV-Cと呼ばれる、より波長の短い紫外線は細胞を破壊する作用があり、過被爆による皮膚の炎症や失明の恐れがある危険な領域の電磁波です。しかしながら、自然の太陽光では、UV-Cの領域は大気中で吸収されてしまうため、地表にはほとんど到達しません。人工照明では、殺菌灯などにUV-Cの領域が使われていますが、このような蛍光灯は通常の環境に使用するには不適切です。
また、紫外線の特徴として、物に反射したり吸収されやすいという性質があります。特に波長の短いUV-Bの領域は、普通の窓ガラスで96%以上吸収されてしまうという報告もあります。
以上のように、自然の太陽光には、赤外線、可視光、紫外線が適度な割合で含まれており、生物はそれぞれの恩恵を受けています。というよりも、太陽からの電磁波に合わせて体が出来ていると表現した方が適切でしょうか。たとえ短時間でも直射日光浴をさせると良いと言われているのは、実に納得できる話だと思います。
また、人工照明を使用する場合は、電球だけとか、紫外線だけが強調された器具を取りつけるのではなく、総合的なバランスを考えて組み合わせることをおすすめします。

電磁波(光についての詳細・用語)

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Akira Yamanouchi(yama@sagami.ne.jp)
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